戦略拠点32098 楽園


戦略拠点32098 楽園 (角川スニーカー文庫)

戦略拠点32098 楽園 (角川スニーカー文庫)

あなたのための物語 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

あなたのための物語 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)


 「あなたのための物語」を読んでなかなか面白かったので、借りて読んでみたんですが、これがものすごく面白かった。
 物語全体をとりまく雰囲気が、なんというか、すごい。感傷的というらしい。繊細ってのはこういうのを言うのかな。
 一番感じたのは切なさと透明感。でもそれだけじゃなくて、暖かさもあれば、やるせなさもあったり、絶望と希望が入り交じっていたりする。そしてそのそれぞれの雰囲気が「楽園」というタイトルに詰まってるような気がした。いろんな感覚がいっぺんにやってくるもんだから、小刻みに心が揺さぶられて、読んでいる間どうも急に涙腺が緩んだりしてあぶない。
 いろんな要素が混じり合って、不思議とどこかで感じたことのある雰囲気を感じる。たぶん軽く鬱っぽい感じの人間臭さと現実感。そういうところに、やっぱりこれが「あなたのための物語」の原点なんだなと感じた。そっちのほうは、もうほんと鬱々しくて、人間臭くて、どうしようもない現実感があったから。
 最後まで読んでみてなんとなく。機械の身体で生まれてきて、戦争のためだけに生きる人間のほんの少しだけ残った人間らしさが、この惑星で蘇る。それが実現されるならば、例えばそれが生きていく上で障害になったとしても、もしそれが答えのない葛藤を生むとしても、人間になれる場所があるならば、それは確かに楽園と呼ぶにふさわしい場所だなと思った。