パーフェクトキス

パーフェクトキス (MF文庫 ダ・ヴィンチ く 2-1)

パーフェクトキス (MF文庫 ダ・ヴィンチ く 2-1)

 少し前にソフラマラジオで取り上げられていて、すごく気になってた本。実は桑島由一は初めて読んだんですが、すごくおもしろかった。
 中身は短編集で半分ポエムみたいな物語集。ポエムを無理矢理物語仕立てにしてみました、という感じ?
 正直言って、気持ち悪い!すごくおもしろくて、すごく好きなんだけど、嫌いでもある。たぶん同族嫌悪とか、読んでいる間の自己嫌悪みたいなものが大きい。でも好きです。きっと人を選ぶと思うけど、読んで共感する男性は多いんじゃないかなあ。
 「鍵穴ポエム01」と「鍵穴ポエム02」がその気持ち悪さが一番目立っていると思う。無職アル中ヤク中キャバ嬢に恋愛中で自虐的で本当にダメ人間な主人公が破滅していくお話。01のほうが本当に気持ち悪くて、ちょっと投げ出してしまいそうになったけど、反面すごい好きだと思える自分がいて、自分自身が気持ち悪くなった。
 でも、読んでいくと後半になるにつれてきれいになっていくんだよね。「花」は交通事故で醜い顔になってしまった男の子が、目の見えない女の子に恋をするお話なんだけど、すごいきれいで純愛な話だし。
 でも、きれいになっていくっていうことが、なんか愛を求める欲っていうものがだんだん薄くなって、現実的になっていくように感じた。「鍵穴ポエム」ではとっても性欲と愛に飢えていて、どんだけダメなやつでも考えていることはセックスのことばっかりだとか、あの人に会いたいだとかばっかり。だけど、「DROPADROPADROP」では女の子から一歩ひいてたりするし、「花」だと好き合っているのに会わない方が良いなんて言って身を退いたりするようになってる。
 この小説がすごく面白いと思ったのはここなんですよね。前半は気持ち悪さばっかりなのに好きでなんだこれはって感じだったのが、後半が現実的できれいになったことで相対的に前半が本能的で欲望がストレートに書かれていたことに徐々に気付く。前半の気持ち悪さが、共感という意味の好きと、同族嫌悪が混じり合ったものだったんだっていうのがわかる。
 それでもう一度冒頭を読み返すと、「はじめに」と「最後にもう一度」が女の子の視点で、他の話に出てくる主人公を包み込んでいる形になっていることがわかる。これを語っている女性が、全ての短編の中で形を変えて出てきて、いつも主人公のそばにいるような感じ。これに気付いたときのカタルシスというか、救われた感がすごい。
 ソフラマでも言っていたけど、これはとんでもない全肯定の小説です。それも、全肯定されたいのはあなた(主人公)であり、わたし(作中に出てくる女の子)であり、読者であり、桑島由一なんだと思う。
 本当に読んで良かったと思える1冊でした。